北朝鮮の元工作員が、海上における日本人の拉致に関する衝撃的な証言をした。北朝鮮による日本人拉致疑惑に関しては、いまだに明らかにされていない事案が存在していると見られているが、今回語られた海上における日本人拉致の証言は彼以外からは出ていない。

漁船ごと沈めた

今月17日、東京で日本・韓国・タイの北朝鮮による拉致被害者の家族が集まるシンポジウムが開かれた。主催は、北朝鮮反人道犯罪撤廃国際連帯(ICNK)、韓国の対北朝鮮放送協会と北朝鮮民主化ネットワーク。シンポジウムでは、元偵察局(現偵察総局)要員であり、現在はデイリーNKで記者として活動するチェ・ソンミン氏が加害者の立場から海上における日本人拉致の手口について具体的に語った。

チェ氏によると、海上拉致は「漁民作戦」と名付けられ、日本海側の元山(ウォンサン)近くなどを拠点に60年代から80年代中頃まで繰り返された。作戦に使用する工作船の船体には漢字で「〇〇丸」と日本式の船名が書かれ、乗り組む工作員たちはある程度の日本語を話す。さらに、日本製の腕時計や服などを身につけるなど、日本の漁船を装って、夜に無灯火で日本漁船に近づき、船を襲撃するのだ。

工作員たちは、日本漁船に乗り込むやいなや、ナイフや銃で船員たちを制圧し、10~30代の健康そうな若者だけを連行する。その他の船員たちは船倉や船室に閉じ込めて、証拠隠滅のため、船ごと沈める。作戦は、年に3回から2年に1回ほど実行されたことから、拉致被害者は10人以上、殺害された人は50人~60人以上に上る可能性もある。

漁民拉致の目的は、日本海沿岸の地理や軍事基地などの状況を把握するためだった。

一昨年、東京新聞が入手した極秘資料には、北朝鮮の工作員は拉致を実行する際、対象が抵抗したら毒殺などによる「処断も可能」(殺害)と記されているという。先日、マレーシアで起きた金正恩党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件もそうだが、海上拉致の手口が事実だとすると、北朝鮮の工作活動は殺人もいとわないものなのだ。

チェ氏は、こうした作戦に少なくとも1回以上、参加したという。現在は自らの行いを深く悔いており、謝罪の気持ちを込めて証言に踏み切った。

ただ、この証言が事実であるかどうかは、客観的には証明されていない。デイリーNKジャパンでも裏付け情報の収集に動いたことがあるが、古い時代の話でもあり調査は困難を極めた。

たくみに証拠隠滅が図られていれば、襲撃された漁船は海難事故として処理されたはずであり、そもそも拉致の疑いすらもたれなかった可能性が高い。

はたして、この情報を日本はどうとらえるべきか。チェ氏は、現在も北朝鮮国内の元同僚と極秘に連絡を取り合っており、作戦が実行された正確な時期や場所などについての情報も入手するつもりだという。その情報と過去の日本で起きた海難事故の情報が一致すれば、北朝鮮による海上拉致の実態が明るみに出る可能性もある。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者